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「八重山の歌謡の世界」~芸大文化講座より

歌謡とは
旋律と歌詞の結合体である。
音楽と、文学つまり言語表現による古来の人々の感受性や思想が
表現されている。

八重山歌謡の分類(外間守善)
呪詞的歌謡  カンフチィ(神口)、ニガイフチィ(願い口)、
ユングトゥ(誦み言)、ジンムヌ(呪文)

叙事的歌謡  アヨー・ジラバ・ユンタ・

・抒情的歌謡  節歌、トゥバラーマ、スンカニ

カンフチィ(神口)の例 部分
うーとおーど きゆぬぴい
ゆかるぴいに うーとしい みーとしい
んかい くだり ちゃーびる
まーゆんがなしいで かん かざる
びんとぉーどお~
(ああ尊 今日の良き日に 大年 新年を迎えて 下って
来ました真世加那志様 こう唱えます 尊)

ニガイフチ(願い口)の例
うーとおーど ちなぶしぬ かん ぬ まい すさり くぬ
うせ ばあうせあらぬ いちむる ぬ うし いやなしぬうし
きゅー ぬ ゆや あじかり とーりり あっちゃ ぬ すてぃむてぃ
ばぁあてかい わたし とーり~
(ああ尊 チナブシの神の前に申し上げます この牛は私の牛では
ありません。イチムルの牛 イヤナシの牛 今日の夜は預かって
ください そして明日の早朝にわたしの手に渡してください)

ユングトゥ(誦み言)の例 部分

南風保多ふんたか 私儀佐生り (はいふた村のふんたかが生まれ)
夕明ん起き 朝ばなん覚り   (早朝に起き 朝早く生気づき)
大和ん生たる 大斧?????????????????????????(大和産の大斧)
やしる生り 荒砥んなあな砥  (山城産の荒砥石に研ぎ)
仕上砥んな くまどいし    (細砥石で細研ぎをして)
腕に取 肩に受         (腕に取り 肩に受け)
まき泊 うな泊下んど     (牧泊にその泊りおりて)
樫木棚 削曲んな 削曲り~   (船材を削りに削って)

ジンムヌ(呪文)の例
どぅきり どぅきり あやむだら あやむだら
此大道や 長道や 人間ぬどぅ通る道どぅやる
あやむだらぬ通らば 中ふん切りや 中切り
尾ふん切りや 尾ぬ切り 頭ふん切りや
水になるんど あやむだら あやむだら
どぅきり どぅきり
(退け 退け アヤマダラ(毒蛇)アヤマダラ
この大道は 長道は 人間が通る道だよ
アヤマダラが通ったら 中踏みつけたら 中が切れ
尾踏みつけたら 尾が切れ 頭を踏みつけたら
水になるぞ アヤマダラ アヤマダラ
退け 退け)

ジラバの例
うるじぃんぬ      (初夏が)
若夏ぬ         (若夏が)
立つだら        (立ったら)
しぃとぅむでぃに    (早朝に)
あさぱなに       (朝まだきに)
うきやぶり       (起きており)
東かい         (東に)
ひんがしかい      (東方に)
うがみば        (拝むと)
ずりぬ花        (梯梧の花)
あかるかいしゃ     (明るく美しく)
さきゆりば       (咲いており)
うりばみり       (それを見て)
きむさにしゃ      (心うれしく)
あるむぬ        (あることよ)

ユンタの例(シャガムヤー)部分
ユナカバレー ミヤラビ  (夜中、就寝中の乙女の家へ行き)
アカミリバ クレナウ   (髪を見たら これはまさしく)
シィミピビリニ カワラヌ (紺染めの綛束のように黒々として美しい)
目ユ見リバ クレナウ   (目を見るとこれはさながら)
ウンカニフン カワラヌ  (鬼野葡萄にそっくりだ)
口見リバ クレナウ    (口許を見るとこれはさながら)
三日月ヌ 若月タレ    (三日月の若月のようだ)
胸見リバ クレナウ    (胸の膨らみを見るとこれはさながら)
粟蒔ダキ カワラヌ    (粟を蒔いた畑のように盛り上がって美しい)
股見リバ クレナウ    (白い股を見るとこれはさながら)
キネーラ股ン カワラヌ  (くつわ虫の脚の美しさそっくりだ)
股ヌ下ユ 見リバ     (股の下方を見ると)
フガラ山ヌ アリバー   (黒次山のように真っ黒い毛がフサフサと生えている)
フガラ山ヌ 中ナンガ   (黒次山の中には)
三角田ン アリバー    (三角の形の田んぼがあって)
三角田ヌ 中ナンガ    (その田んぼの中には)
バンドウガミン アリバドゥ(大きな水瓶があり)
目ネン坊主ヌ パリキバ  (そこへ目無坊主がやってきて)
入ラディメンヤ ウディフリ(水瓶の中に元気よく腕をふりふり入っていったが)
イドゥディメンヤ ダラダラシ(出るときはぐったりしてダラダラしていた)

古来の八重山人の、敬虔な神への祈り、牛を繋ぐ時も無事を願い、毒蛇に会っても、
アヤマダラよ、退きなさい、頭を踏まれたら水になるよとどこまでもやさしい語り口、
初夏の訪れのみずみずしい表現、また、若者の素朴でおおらかな性を、美しい比喩で
謳歌する、人々の、自然の中で神と共にある、素朴だけど精神的に豊かな暮らしぶりが、
何ともいとおしい。

ペーチン